人は変われない。

「人は変われない。」

1人の少女がそう囁いた。

あれは多分、中学の卒業式が終わった3月頃。クラスメイトではあったが学校以外で会うことなんてなかったその子に会いに行った時のこと。はっきりと覚えていないけれど何かを借りに行ったはずだ。駅からその子の家までの道のりで彼女は最近親が離婚したこと名字が変わること離婚の原因の父親のことを話し出した。僕はその後ろ姿を見ながらただついていく。ふと気づくと彼女は立ち止まっていた。彼女は振り返って僕の目を見て、

「人は変われない。」

と言ってまた歩き出した。

その言葉は半分正解で半分間違てる気がした。人は必ず変わる。でも、一度なってしまった自分は変わってもなくならない。一枚の折り紙で何回も違うものを作るように。ぱっと見は違うものでも折り目は消えないし、それに沿って折ればまた過去の形になる。例えそれが目を逸らしたいような嫌いな自分だったとしても、今に繋がる過去を生き抜いたのは確かにその自分だ。他人にどれだけ嫌われようと自分だけはその時の自分の手を離すことはできないのだ。彼女はきっと家族を壊した父親を嫌悪していた。でも、そんな父親でも今の自分を形作ったかけがいのない人だったのかもしれない。

もうその子の顔も声も忘れてしまったが、今でもあの時の目と言葉はときどき頭の中で浮かんでくる。

彼女の目には全てがあって全てがなかった。